2014年8月24日日曜日

Vacances d'été

夏休み。
留学先から一時帰国している娘。

先輩ダンサーの舞台を観にいったり、高校の先生に挨拶に行ったり、陸上部に顔を出したり、同級生とプチ旅行したり、幼馴染みとご飯食べたり、と忙しい。久しぶりの故郷が楽しくてしょうがない、という様子だったが、それも2週間くらい。3週めに突入した現在はもう飽きてしまって「早よ学校に戻りたいわあ〜」などとやたらつぶやく始末。
ほげーと過ごせばいいのにじっとしていられない性分で、毎日、人に会うか街へ出るかしてちっとも家でゆっくりなんかしていない。誰に似たんだか。母は暇さえあればごろ寝を決め込むというのに。

友達とご飯食べてたら口の中でガチッと音がして、何かと思えば奥歯が欠けた、という。生まれてこのかた虫歯ゼロを誇って来た娘だが、とうとう、削って銀歯を補填する羽目になった。いままで歯に何も問題なかったのは幸運に尽きるが、きっとこれから先はけっこう歯のトラブルに悩まされるに違いない。なんつっても私の娘だからな。

私は幼い頃からしょっちゅう歯医者通いをしていた。歯並びはすこぶる悪く、きれいに並んでいない歯はお約束のように必ず虫歯になり、ある日突然欠ける。大人になってからもそんな生活を繰り返した。私は乳製品が嫌いだし、カルシウムが大きく不足していたかもしれないが、こと歯磨きにかんしては真面目にきちんと取り組んでいたはずだった。なのに、私の歯と歯茎はいつもとても不健康なのだった。
痛みを感じて歯医者を受診するたびに、歯周病の恐怖を説かれ、定期検診の必要性を説かれた。でも私は定期的に歯医者ヘ行くなんてまっぴらだった(みんなそうよね?)。そういう心がけだとじきに歯周病になるぞとイケズな歯科医にいわれつづけたけど、いままでなってないもんね。
20年くらい前に「10年後くらいには総入れ歯を覚悟してください」なんていわれて、その「10年後」が到来したときは「このままだっとあっという間に総入れ歯ですよ」といわれた。しかし、それからさらに10年経った今、歯科医は既存の歯の健康を維持するために「部分入れ歯」の導入を薦めた。でも、いくら「部分」でも、「歯を付け外しする」という行為だけで一気に老け込みそうだ。そう思ってそのとおりのことを述べる。
「歯を付け外しするのって、ちょっとまだやりたくない気分かな……若ぶる気はありませんけど」
「だろうね。だよね」
「この次、もうにっちもさっちもいかなくなったら部分入れ歯でも総入れ歯でも、諦めます」
「そうだね。今回部分入れ歯は廃案、ブリッジにしましょう」

歯の治療の顛末は、昔話も含めて娘によく話して聞かせた。そのたび娘はフンと鼻で笑って「おきのどく〜」などとつぶやく。おい、きみにもこういう運命が待ち受けているかもしれないのだぞ。
「なんやかんやいうてもけっきょく入れ歯してへんやん。まだイケてるってことやん。若いっていうことやん」と激励のような慰めのようなセリフを吐いたあと、「そやし、ウチも大丈夫やわ、絶対」と自信たっぷり。

しっかり噛む。人間はその体力・体格をしっかり噛んで食うことで維持している。噛んで砕いて、飲み込む。噛んで砕くことをおろそかにしたら飲み込む時につっかえる。無理に飲み込んだら内蔵が消化吸収するのに差し障る。
「噛む」は基本であり、最重要アクションである。歯の丈夫な人は健康で長生きだし、すぐれたアスリートはきっと頑丈な歯を維持しているだろう。
現在娘は腹八分目を心がけていることもあるが、食事の量は少ない。だが、非常によく噛んで食べる習慣が身についているので、わずかな量の食事を長い時間かかって食べることになる。娘がまだ小学生のときは、クラスメートが残す給食も全部引き受けるほど大食いだった。また、(これは日本の公教育の多大な欠陥だと思うが)昼食時間が非常に短く、早く遊びに行きたいこともあって、ぱくぱくぱくごくごくごくっと食べていたようである。私が口うるさく「よう噛みや」と呪文のように唱え続ける家での食事も、娘は早く食べていた。だが中学生になり体がどんどん成長してくると、早食いは太ると誰かに吹き込まれたのか、大食いながらゆっくり食べるようになった。するとほんとうに体はムキムキ隆々と成長し、まさにひと噛みひと噛みが血肉になっていた。惚れ惚れするような筋肉が、全身を覆っていた。

残念ながらムキムキ筋肉マンのような体はバレリーナには必要ないので、高校生になって娘はダイエットを敢行した。極端に食事を減らしたが、栄養欠如にならないように食品を厳選して、そしてやはりよく噛み、体のすみずみまで送り込むように、ゆっくり食べた。
ひと口ひと口を大切に、食べた。
おかげで、拒食症だとか、精神を病んでしまうといった極端なダイエットにありがちな副作用には遭わずに済んだ。それは本当によかったと思っている。
しかし、やはり痩せたことで体全体の「巡り」が衰えた。冷えがちになり、しもやけなど血行の悪いことが原因で起こる現象が頻発し、症状もひどかった。免疫能も低下し、感染性の外傷は容易に悪化した。今、娘には、食事制限は御法度で、きちんとバランスよく食事を摂ることが至上命令である。本当はスイーツ厳禁なのだが、10代女子にそれは不可能(笑)ということで、ちゃんと栄養たっぷりの食事をすることを守るなら少しは食べてもいい、ということになっている。

歯を大切にして、健康な歯でひと噛みひと噛み大事に食べて、摂った栄養を無駄なく体力と体格の糧にしよう。明日の君は今日食べたものでできているのだ。だからホンマに虫歯には気をつけてな。

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